
日本の不動産投資市場の動向について
今回は大阪市の賃貸マンション市場の動向について取り上げたいと思います。
総務省の住民基本台帳人口移動報告で2024年の人口の転入超過数(国内移動)を21大都市でみると、東京23区が58,804人と最も多く、次いで大阪市の16,090人の順になっています。
ここでは東京に次ぐ人口流入規模がある大阪市における賃貸マンション市場の動向につき、具体的にみていきます。
まず需要面について、冒頭でも示した住民基本台帳による大阪市の人口の転入超過数(国内移動)をみてみましょう。
2017年から2020年までは転入超過数は増加傾向で、大阪市が人口を引き付ける様子が窺われ、2020年は16,802人でした(図表1)。
注:2025年は8月までの合計
その後の2021年はコロナ禍での経済・社会活動に制限が生じた中で人口流入の勢いは鈍化しましたが、その後は回復傾向となっています。
2025年に入ってからの動きをみると、直近の8月までの合計の転入超過数は10,688人と人口流入が続いている点は需要面ではポジティブな面として捉えることができます。
ただ、転入超過数の前年同月差でみると、2014年12月以降は前年差マイナスが続いている点には留意が必要で、今後の人口流入の勢いがどのようになっていくか注視していきたいところです(図表2)。
出典(図表1、2):総務省「住民基本台帳人口移動報告」よりKDX ST パートナーズ株式会社作成
一方、大阪府全体でみると2025年は8月までの合計で14,163人と人口流入は続き、前年2024年の1月から8月までの合計と比較しても432人増となっており、大阪市周辺を含めた府全体で人口を引き付ける動きは続いているとみられます。
次に供給面についてみていきます。
国土交通省の「住宅着工統計」から貸家の住宅着工戸数について大阪市の動向を見ると、2021年3月頃より増減を伴いながらも緩やかな増加トレンドとなっています(図表3)。
出典:国土交通省「住宅着工統計」よりKDX ST パートナーズ株式会社作成
直近の2025年5月~7月は水準が下がり、一直線 に増加している状況ではありませんが、今後の供給が再び増加傾向とならないかどうか、需給バランスを見るうえで定点観測が必要とみられます。
ではこのような需給動向のうえで、大阪市の賃料動向がどのようになっているのかをみていきます。
マンション賃料インデックスの推移を見ると、コンパクトタイプとファミリータイプの上昇ペースが顕著で、シングルタイプも緩やかながらも上昇(※成約事例によって上下変動がある点には留意が必要です。)しています(図表4)。
出典:アットホーム株式会社、株式会社三井住友トラスト基礎研究所「マンション賃料インデックス」よりKDX ST パートナーズ株式会社作成
各タイプともコロナ禍では低下する局面もみられましたが、足元にかけて水準は徐々に切り上がって きていることが窺われ、2009年第1四半期の水準と比べると、足元の2025年第2四半期はシングルが+19.8%(年率+1.1%)、コンパクトが+40.1%(年率+2.1%)、ファミリーが+49.4%(年率+2.5%)と上昇しています。
前回記事「住宅マーケットの動向について」で東京23区の賃貸マーケットの改善をお伝えしましたが、大阪市についても市況は改善傾向にあるとみられます。
なお、大阪市では従来からの「キタ」、「ミナミ」に加え、新たに湾岸エリアを「ニシ」、大阪城周辺エリアを「ヒガシ」とした再開発が進められており、今後の大阪市の不動産市況を考えるうえでは再開発の影響を見ていくことも欠かせません。
「ヒガシ」エリアでは、2028年にOsaka Metro 中央線を森ノ宮駅から北へ延伸して新駅を開業することが予定されており、新駅周辺には大阪公立大学の森之宮キャンパスが2025年9月に開設されています。これに伴い学生の賃貸マンション需要にも影響を与え得るとみられます。
「ニシ」では夢洲で大阪IR(統合型リゾート)工事が開始され、2030年開業が計画されています。IR開業に伴う雇用創出が期待され、運営に従事する就業者の賃貸住宅需要に影響を与える可能性も考えられます。
上述の人口動態や供給動向を観測して需給バランスを見ながらも、再開発が今後の需要と供給に与え得る影響について考えることが、大阪市の賃貸マンション市場を見通すうえでは重要なポイントになるとみられます。
※本記事作成時点:2025年10月3日
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