
日本で金利が引き上げられる中、不動産投資への影響は?
2024年に入ってから日本でも長らく続いてきたマイナス金利が終了し、日本銀行の利上げによって政策金利は0.25%程度となり、日本においてもようやく金利が動き始めました。
厚生労働省が公表した民間主要企業の春季賃上げ要求・妥結状況によると、2024年における春闘では主要企業の賃上げ率が基本給を底上げするベースアップと定期昇給を合わせて5.33%と33年ぶりの高水準となり、物価も上昇してきていることから、日本銀行による利上げが2025年以降も段階的に進むことが市場では見込まれています。
日本銀行は政策金利引き上げの際に注目するポイントとして賃金や物価動向を挙げておりますが、本稿では足元の日本の賃金や物価の情勢につき改めて確認していきたいと思います。
まず、物価動向についてですが、日本は長らくデフレ状況が続いてきたことから米国やユーロ圏と比べても物価の上昇率が低迷していた時期が続きました。
日本銀行は政策金利を引き上げる際、消費者物価指数(以下CPI)が基調的に前年比2%で上昇していくかどうかを判断材料としていますが、図表1の総合CPI上昇率が示すように日本では2021年8月まではマイナスが続いた後、2022年以降に上昇率を拡大させてきました。
要因の1つとしては、2022年以降に米国FRBで政策金利の引き上げが進み、日米金利差を背景に為替でドル高円安が進行し、日本における輸入コストが上昇したことがあるとみられます。
出典:総務省「消費者物価指数」、米労働省労働統計局、ユーロ圏統計局よりKDX ST パートナーズ株式会社作成
CPIの内訳でも生鮮食品除く食料は、企業の輸入コスト増が末端価格へ転嫁されたとみられ、2022年以降に特に上昇率を急拡大させてきています(図表2)。
これがCPIの基調的な変動を示すいわゆるコアコア指数である「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」の上昇へと寄与してきました。その後、生鮮食品除く食料は価格転嫁が一服したとみられ徐々に上昇率を縮小させてきたこともあり、コアコア指数も縮小し2024年10月に前年同月比+2.3%と足元では2%台前半で推移しています。
輸入コスト増の価格転嫁が一服した後も基調的に2%の物価上昇率を維持するためには需要サイド、つまり消費主導による物価上昇が必要とみられます。そのためには今後も継続的に賃金が上昇し、消費が増えていくことが重要と考えられます。
出典:総務省「消費者物価指数」よりKDX ST パートナーズ株式会社作成
そこで賃金の動向につき、厚生労働省の「毎月勤労統計」をみると(図表3)、賃上げの動きに伴って名目ベースの所定内給与(注1)は上昇の一方、物価上昇率を差し引いた実質ベース(注2)では伸び率はマイナス圏から脱することができていない状況で、今後は物価上昇の勢いに負けない賃上げ拡大が必要となってくるとみられます。
物価上昇率を上回るペースでの賃上げが今後も継続し、消費主導での物価上昇率2%近辺が基調的に確認されるかどうかは、日本銀行の利上げ判断に際して重要な材料になるとみられます。
出典:厚生労働省「毎月勤労統計」(共通事業所ベース)よりKDX ST パートナーズ株式会社作成
(注1)
「所定内給与」:きまって支給する給与のうち所定外給与以外のものをいう。
「きまって支給する給与」:労働契約、団体協約あるいは事業所の給与規則等によってあらかじめ定められている支給条件、算定方法によって支給される給与のことであり、所定外給与を含む。
「所定外給与」(超過労働給与):所定の労働時間を超える労働に対して支給される給与や、休日労働、深夜労働に対して支給される給与のことであり、時間外手当、早朝出勤手当、休日出勤手当、深夜手当等である。
(注2)
所定内給与の上昇率から消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)の上昇率を差し引いて算出したもの。
※本記事作成時点:2024年12月6日
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