
日本で金利が引き上げられる中、不動産投資への影響は?
今回は、日本の金融政策、国内金利およびマクロ経済の動向について、足元の環境を整理し、先行きを考えるうえでの注視すべき点について見ていきます。
日本では2024年3月にマイナス金利政策を終了し、その後、緩やかながらも政策金利が上昇しています。こうした環境下でまず、国内の金利はどのように推移しているのでしょうか。
政策金利の動きは、その他の金利にも影響を及ぼします。ここでは次の2つの金利について確認します。
短期プライムレート:
信用度が高い顧客に対して適用される貸出金利のこと。住宅ローンの変動金利の基準金利として利用されることが多い
TIBOR(Tokyo Interbank Offered Rate)3か月物:
東京市場で銀行同士が資金を貸し借りする際の金利の指標。企業向け貸出金利の基準金利として利用されることがある
日本銀行が2024年7月末に政策金利を0.25%へ引き上げて以降、これらの金利は総じて上昇傾向にあります(図表1)。
出典:一般社団法人全銀協TIBOR運営機関「全銀協TIBOR」、日本銀行「金融政策決定会合結果資料」よりKDX ST パートナーズ株式会社作成
政策金利の上昇に伴い各銀行は貸出金利を引き上げ、短期プライムレートは上昇しました。
短期プライムレートは、2024年9月に1.475%から1.625%へ、さらに2025年3月に1.875%へ上昇しました(出所:日本銀行、都市銀行(みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行)が自主的に決定した金利のうち、最低の金利を採用)。
この間、短期プライムレートを基準金利とした住宅ローン変動金利は0.40%pt上昇したことになります。またTIBOR 3か月物は、長らく0%近辺で推移していたものが、足元では0.8%台に上昇しています。
個人・企業ともに金利負担が徐々に増しており、不動産投資の観点からは賃料収入の成長が求められる環境になってきていると言えるでしょう。
政策金利を起点に他の国内金利へと影響が波及していくわけですが、足元の金融政策について確認していきましょう。2025年10月30日の日本銀行金融政策決定会合では、政策金利の据え置きが決定されました。以下は決定会合における植田総裁会見での発言ポイントです。
「関税政策がわが国経済に与える影響については、関税政策による収益下押し圧力が作用するもとでも、企業の積極的な賃金設定行動が途切れることがないかどうか、もう少し確認したい」
「企業の賃金設定スタンスや具体的な賃金の動向を分析し、賃金と物価がともに緩やかに上昇していくメカニズムが維持されていくかどうか、確認していきたい」
「マクロ的な観点では海外経済、特に米国経済発、あるいは世界の通商政策動向を巡る不確実性は依然継続しており、来年の春闘に向けての労使の交渉姿勢を含めてデータをもう少し見たい」
「先行きを展望して今後の消費を決める一つの要因として、注目しているのは、来年度の春闘にかけての賃金の動きがどれくらいになるかという点」
今後は日本のマクロ経済環境を注視しながら、景気を冷やさないよう慎重な金融政策運営が続くとみられます。ここで、日本経済における代表的なマクロ経済統計の1つであるGDP(国内総生産)の動きを確認していきます。
2025年第3四半期のGDP(1次速報値)は、前期比年率で-1.8%と、2024年第1四半期以来のマイナス成長となりました(図表2)。
出典:内閣府「四半期別GDP速報」よりKDX ST パートナーズ株式会社作成
寄与度の内訳を見ると
が成長率を押し下げる主要因となりました。
民間住宅については、2025年4月施行の建築基準法改正の前に駆け込み需要があったことの反動が出た影響と推察されます。また輸出減については米国による関税政策発動の影響の可能性が考えられます。
民間最終消費支出と企業設備投資の寄与度はプラスを維持しているものの、輸出減が関連産業の設備投資を冷え込ませるリスクはないかなど、今後の動向にも注意を払う必要があります。
日本銀行が2025年11月10日に公表した「金融政策決定会合における主な意見(2025年10月29・30日開催分)」では、次のような指摘がありました。
一方で、
との発言もあり、先行きに対する不透明感はやや和らいだものの、経済下振れリスクは依然残るとみられます。利上げをどのくらいのペースでどこまで進めるのか、日本銀行の今後の政策判断を考えるうえではGDP統計をはじめとしたマクロ経済統計の推移を注視する必要があります。
※本記事作成時点:2025年11月17日
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